大分の秋
本を読むと、知識が増える、アタマが良くなる、カネが儲かる、廊下を走らなくなる、などと言う人があまりに多い。
読書家とは本を読むことを恥ずかしいと思っていない者、と書いたことがあるが、もちろん事実とは違う。
本を読むのが好きな人は、自分が「良いこと」をしてるとは思っていない。
むしろ「うしろぐらいこと」をしていると思っている。
本を読むのが好きでない人は、読書が「良いこと」だと思っている。
これでは永久に本を読む楽しさを知ることはないだろう。
そればかりか、読書を「良いこと」だとすすめて、周囲の人間まで本嫌いにしてしまうだろう。
寺山修司は、暗いところで何か読んでいると「目が悪くなるからやめなさい」と叱られる、「本当の理由」を看破している。
問題は、視力低下でも、照明の暗さでもない。
ヨーロッパ中世では、黙読していると「あいつは今、悪魔と喋ってやがる」と後ろ指を指されることがあった。
それと同じで、暗がりで本に向かい合う行為それ自体が、大人たちを不安にさせるのだ
「・・・」
繰り返そう。読書は、人に言えない愉しみである。
読む者を所属する社会から引き剥がし、帰って来れなくなるかもしれない世界へと導く魔笛であり、その魂に現世(うつしよ)にまで溢れるほど夜の夢を注ぎ込む邪な水差しである。
だが、影をなくした者が消え去るほかないように、すべてを白日の下にさらせば読書の愉楽は消え失せる。
わたしやあなたの魂もまた……。





